ある行旅死亡人の物語 武田惇志 伊藤亜衣著
例によってFMココロの本紹介のコーナーでのおすすめ本。
図書館の蔵書を予約すると意外と早く順番がまわってきました。
『「行旅死亡人」とは病気や行き倒れ,自殺などで亡くなり,名前や住所など身元が判明せず引き取り人不明の死者を表す法律用語。
行旅病人及行旅死亡人取扱法により,死亡場所を管轄する自治体が火葬。
死亡人の身体的特徴や発見時の状況,所持品などを官報に公告し,引き取り手を待つ。』
著者は共同通信大阪社会部に在籍する新聞記者の武田氏。
もともと裁判を担当する司法記者クラブ詰目だったのが人事異動で「遊軍」担当になり,自らネタを探して記事にする必要があった。
そんなネタ探しの中で「行旅死亡人データベース」にアクセスすると「行旅死亡人の所持金ランキング」1位の,尼崎の女性が目に留まる。
なんと3400万円もの所持金を持ちながら本籍,住所,氏名不明という女性。しかも右手の指が欠損している。
問い合わせ先の尼崎市南部保健センターに問い合わせてみると,対応に出た職員から「タナカチズコ」という名前を告げられるが,財産が残されていたために相続財産管理人の弁護士に引き継がれているという。
その弁護士と連絡がつき,発見場所のアパートに1982年から住んでいたこと,住民票がなく,名前と住所が書いてある年金手帳が見つかったこと。(田中千津子 昭和20年9月17日生まれと記載)
「沖宗」という印鑑が見つかったこと。これは非常に珍しい苗字で広島出身と思われること。
アパートの大家さんへの聞き取りでは,入居した時の賃貸契約書では「田中竜次」名義だが,「竜次さんなんておらんで』という。
右手が欠損したときの労災認定をことわっているのでその線から身元はたどれない。
保険証がないので1回何十万という健康保険がない人専用の歯医者で歯の治療をしていた。
警察が身元を特定できる書類を探しても見つからず,探偵を雇って誰か一人でも親族の連絡先を探そうとしてもわからない。
同い年の同僚,伊藤記者にこの話を伝えたところ,共同で取材にあたることになるが住んでいたアパート(錦江荘)からその周辺での聞き込みはほとんど空振りに終わる。
そんなときに「沖宗ルーツ」という、沖宗姓についてに家系図を掲載しているブログを見つけて,ブログ主とコンタクトを取って,そこから広島に在住の沖宗さんに会いに行き,とうとう「沖宗千津子」さんが私の叔母でしたという人物に行き当たるという,まるでよくできた謎解きミステリーのような展開。
結局,多額の所持金丸ぜ残されていたのか,田中竜次氏の存在や住民票がなったことなどの謎は解明されないままで終わりますが,最後は無事に沖宗千津子さんの遺骨がお姉さんの隣に安置されることになるということで一件落着。
新聞記事をもとに加筆修正したドキュメント本,大変読み応えがあり面白かった。